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Pulp「Razzmataz」

Pulp「Razzmataz」 パルプ - ラズマタズ 1993

SNOOZER #069 - 2008年10月号 106ページ 文:田中宗一郎

 125 Wicked & Sweet LOVE SONGS 究極のラヴ・ソング・ランキング ・・・ 32

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Pulp - Intro: The Gift Recordings

♫ 俺と別れて不幸なんだろ?

ひとつの愛の終わりは、時として、かつてはあんなにも輝いていた恋人達をひたすら惨めで醜悪な場所へと突き落とす。自分を捨てたオンナに向かって、その後、無残に落ちぶれたオンナの今をあげつらう未練がましいオトコの語り口を使いながら、ジャーヴィス・コッカーは失われた愛の物語を克明に描き出す。

オンナの兄は母親と近親相姦、姉は間違って妊娠、今では本人はぶくぶくと太り、きらびやかな夜の街を徘徊し、性病や妊娠が不安で病院通い、もはや誰にも相手にされないほどに孤独。そして、オンナの悲惨な日常をヒステリックに並べ立てるオトコの罵詈雑言は、オトコの今がさらに救いようもないほどに惨めだということを見事にあぶり出す。「俺、早口すぎる? それとも馬鹿のふりしてんの? じゃあ、書き留めてあげようか?」「あの時、別れないでくれって言ったの、あれ、嘘だから」。ひたすら痛々しいまでに、失われた愛の大きさが浮かび上がる。

だが、そんな風に愛を失い、落ちぶれ、正気を失ったすべての人々を優しく抱きしめる視線にこそ、この曲の素晴らしさがある。いつだって惨めな日常の守護神であり続けたパルプだからこそ書きえた、珠玉の傑作。

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SNOOZER #069

http://www.littlemore.co.jp/magazines/snoozer/issues/20081018123.html

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以上。